TOP > 108のヒント > アーユルヴェーダは日本人に合わないのか?―3,000年の知恵を日本の風土に根付かせる ヒント4

風を鎮め、水の潤いを取り戻す、日本人に合ったの養生について書きました。

「スパイスの療法」という誤解

「アーユルヴェーダに興味はあるけれど、インドやスリランカのスパイスをたくさん使う料理は、日本人の体質には合わないのではないか」
このような質問をいただくことがあります。テレビや雑誌などで紹介されるアーユルヴェーダは、どうしてもエキゾチックなスパイスや、南国のハーブを使ったオイルトリートメントの印象が強く残るためです。そうした情報に触れるたび、遠い国の健康法のように感じてしまうのは、ごく自然なことかもしれません。

しかし、その考えは少し立ち止まって見直す必要があります。
アーユルヴェーダは、インドやスリランカという亜熱帯の気候や文化の中で生まれた医学ですが、その根底にあるのは「人間の身体と自然界の普遍的な法則」です。スパイスやハーブは、あくまでも「その時、その場所で必要な体調や不調を整えるための手段(ツール)」のひとつに過ぎません。

例えば、身体の中に未消化物が溜まり、重だるさや冷えが強いときには、確かにスパイスの持つ熱や辛味が有効に働きます。しかし、すべての日本人が常にそのような体調であるとは限りません。むしろ、日本の豊かな四季や、それぞれの体質によっては、スパイスを多用しない方が心身のバランスを保てることも少なくないのです。

具体的な一つの手段だけを見て「日本人の体質には合わない」と判断してしまうのは、アーユルヴェーダの本質を見落としてしまうことになります。

普遍的な「4つの軸」

では、アーユルヴェーダの何が普遍的なのでしょうか。それは、国籍や気候、人種に関係なく、すべての命に共通している「心身の基本構造」です。

アーユルヴェーダでは、健康を考える上で以下の4つの要素を重視します。
• 体質(プラクリティ): 生まれ持った身体と心の傾向。
• 体調(ヴィクリティ): 日々の生活や環境によって変化する、現在のアンバランス。
• 消化の火(アグニ): 食べたものや情報を正しく処理し、エネルギーに変える力。
• 未消化物(アーマ): 消化しきれずに身体の中に留まる、毒素や滞り。

これらは、インド人であっても、日本人であっても、あるいはヨーロッパの人々であっても変わりません。誰の身体にも「火(ピッタ)」「風(ヴァータ)」「水(カパ)」のエネルギーが存在し、そのバランスが崩れたときに不調が現れます。
「自分の今の体調はどうなっているのか」「消化の火は正しく働いているか」「身体に未消化物が溜まっていないか」を見極める視点は、場所を問わず誰の生活にも当てはめることができるのです。

日本の食材と「6つの味(ラサ)」

大切なのは「何を食べるか」という表面的なルールに縛られることではなく、「理論に基づいて自分を観察し、適切なものを選択する」という姿勢です。アーユルヴェーダの理論を正しく理解していれば、日本の食材や風土の中で、適切に自分を整える養生を行うことができます。

アーユルヴェーダには、すべての食べ物が持つ6つの味(ラサ:甘味・酸味・塩味・辛味・苦味・渋味)が存在し、これらが心身に与える影響を説いています。日本の四季折々の食材には、これらの性質が美しく備わっています。

春:カパ(水)を整える「苦味・渋味」の活用
冬の間に体内に蓄積されやすい重いエネルギー(カパ)を鎮めるには、苦味や渋味を持つ食材が有効です。
• 食材の例: ふきのとう、タラの芽、菜の花、たけのこ。
• 調理のアイデア:
o 山菜の天ぷらや、春野菜の和え物にして、春の苦味を美味しくいただく。
o 大根おろし(辛味・苦味)を焼き魚に添えて、消化をサポートする。

夏:ピッタ(火)を鎮める「甘味・苦味」の活用
夏の強い日差しや暑さによって体内に「熱(ピッタ)」がこもるのを防ぐためには、水分が豊富で、体を冷ます性質のある食材や、適度な苦味を取り入れます。
• 食材の例: きゅうり、冬瓜、ゴーヤ、すいか。
• 調理のアイデア:
o 冬瓜と鶏肉のあっさりとした煮物。
o ゴーヤチャンプルーで、適度な苦味を取り入れ、胃腸の熱を抑える。

秋・冬:ヴァータ(風)を落ち着かせる「甘味・酸味・塩味」の活用
冷えや乾燥によって「風(ヴァータ)」が暴走する季節には、しっかりと滋養があり、温かく重みのある食材が心身を安定させます。
• 食材の例: さつまいも、かぼちゃ、根菜類、味噌、醤油。
• 調理のアイデア:
o 根菜や里芋を使った、温かい味噌汁や豚汁。
o 煮込み料理で、じっくりと火を通し、温かい状態でいただく。

日常の所作が「養生」になる

アーユルヴェーダが日本人に合わないと感じてしまうもう一つの理由は、それを「特別な療法」として捉えているからかもしれません。
しかし、本来のアーユルヴェーダは、生活の中の「あたりまえの所作」の積み重ねです。
• 「自分の今の状態を静かに感じる」
• 「消化の火が十分に働き、前の食事が消化してから次の食事をとる」
• 「白湯を飲み、内側の潤いを確かめる」

特別なハーブティーを取り寄せなくても、朝一番の白湯を丁寧に味わうだけで、消化力を高めるだけでなく、自分を見失っていた心は静かに元の場所へと戻ってきます。

答えは、あなたの中にある

アーユルヴェーダは、日本人には合わないものではありません。むしろ、日本の風土や日本人の気質に合わせて柔軟に姿を変えることができる、懐の深い知恵です。

4月に出版した新刊でも詳しくお伝えしていますが、「若返り(ラサーヤナ)」のプロセスとは、新しい何かを取り入れることではありません。自分自身の本来のバランスに立ち返る、引き算の作業です。
難解なスパイスの名前を覚える必要はありません。まずは、今、日本で暮らす私たちの足元にある食材と、身体の声に耳を傾けてみてください。

今夜の夕食は、少しだけスマホの画面を閉じ、目の前にある温かいお味噌汁の湯気や、素材そのものの甘みを、丁寧に味わってみませんか。

【今日の一言】

遠い国のスパイスよりも、足元にある日本の旬を味わう。それこそが、日本人に合った一番の養生です。

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