TOP > 108のヒント > 朝、目にするものを選択する ヒント5

一日の心や体の状態に影響をおよぼす「何に目をむけるか」について書きました。

「視覚の選択」が一日の心の状態を左右する

一日の始まりである「朝」は、私たちの心身にとって重要な意味を持ちます。睡眠中に記憶が整理され、新しい一日が始まる起きたての時間帯は、まだ意識が完全に覚醒しておらず、無意識の領域が働きやすい状態にあります。

アーユルヴェーダでは、この朝のスタートをどのように過ごすかを非常に大切に捉えています。心身を健やかに保つための理想的な過ごし方は「ディナチャリア(一日の理想的な過ごし方)」として細かく定められています。

これからご紹介する、白湯を飲むこと、口の中を清める舌苔(ぜったい)の掃除、そして体を心地よく目覚めさせる軽い運動。これらはすべて、眠っている間に溜まった未消化物(アマ)を排出し、一日をクリアに始めるための習慣です。

そして、アーユルヴェーダが整えようとするのは、身体の内側だけではありません。

朝、目覚めてから私たちの「目」が最初にとらえるもの。この「視覚の選択」もまた、その日一日の心の状態を左右する大切な要素です。

今回は、忙しい現代人がつい見落としがちな、朝一番に「吉相物(きっそうぶつ)」を眺めるという智慧について解説します。

脳の初期設定を決める「最初の景色」

「吉相物を眺める」と言われると、何か特別な、縁起の良い置物を用意しなければならないのだろうか、と思われるかもしれません。しかし、アーユルヴェーダが伝えているのは、形式的な縁起担ぎではなく、「それを見たときに、自分の心がどれだけ自然に和むか」という、内面の肯定的な反応のことです。

私たち人間は、五感の中でも特に「視覚」から多くの情報を受け取っています。

目に入る情景は、一瞬で脳へと送られ、私たちの自律神経や感情のスイッチを入れます。朝一番に何を見るかによって、その日の脳の「初期設定」が決まってしまうようなものです。

仕事や日々のタスクに追われている現代において、朝起きて最初に目にするものが、スマホのスケジュール画面や未処理のメール、あるいはせわしないニュースが流れるテレビ画面、重苦しい新聞の一面であるという方は少なくありません。

確かにそれは、一瞬にして交感神経にスイッチを入れて仕事モードに入り、一日を効率的に運ぶためには必要な情報かもしれません。反面、まだ十分に覚醒しきっていない心に、いきなり「現実の義務や課題」を突きつけることは、脳の深いところに緊張という負荷をかけることにもなります。

心のゆとりが、結果として仕事や家事のパフォーマンスを高めることにも繋がります。それが、アーユルヴェーダが考える心身の調和です。だからこそ、朝のほんの数分、あるいは数秒だけでも、心をリラックスさせるものを眺める習慣が役に立ちます。

あなたにとっての「吉相物」とは

では、私たちの心を和ませ、安心感を与えてくれるものには、具体的にどのようなものがあるでしょうか。それは決して高価なものである必要はなく、身近な日常の中にあります。

例えば、窓辺で朝日を浴びている観葉植物の緑。

家族の写真。

すやすやと眠っている、あるいは心地よさそうに過ごしているペットの姿。

こうした、自分にとって素直に「心地よい」と感じられるものに視線を注ぐとき、心は自然と落ち着きを保つことができます。

また、ご自宅に仏壇や神棚がある方なら、その前で静かに手を合わせ、一礼する時間を持つことも良い習慣です。自分を支えてくれる存在への感謝や安心感は、今日という日を落ち着いて生きる土台となります。

もし、「自宅には、そのように眺めるものが思い当たらない」という場合は、一歩外へ出たときに少しだけ視線を上げてみてください。

朝の青空や白い雲、季節ごとに色を変える街路樹の葉、あるいは道端に咲いている小さな花。

そうした自然の営みにほんの少し意識を向け、ただ眺めるだけでも、私たちの感覚は十分にリフレッシュされます。

脳に働く「慣性の法則」

なぜ、そこまで朝の視覚にこだわるのでしょうか。

私たちの脳には、一種の「慣性の法則」のような仕組みが備わっているからです。

朝一番に、すがすがしいもの、心が和むものに焦点を当ててスタートすると、脳はその日一日を通じて、特別な意識をしていなくても、周囲にある肯定的な出来事や感謝できることに焦点が合いやすくなります。

逆に、朝から焦りを生むタスクや、ネガティブな情報ばかりを眺めてスタートすると、脳は警戒モードに入り、日中の出来事に対しても、不安や問題点ばかりを拡大して捉えやすくなってしまいます。

朝の数秒間の選択が、その日一日の意識の向き方を決める。そう考えると、朝に何を眺めるかという選択は、その日の質をコントロールすることと同じ意味と言えます。

一気に生活を変えるのは難しくても、ベッドから起き上がったとき、あるいは出勤の扉を開けたとき、ほんの数秒だけ「心が和むもの」を見つめる時間を作ってみてください。

その静かな習慣が、あなたの一日を、穏やかで安定したものにしてくれるはずです。

【今日の一言】

手帳を開く前に、スマホの画面に触れる前に、心を落ち着かせてくれるものに視線を向ける。その数秒の積み重ねが、忙しい毎日の中に、揺るぎない平穏をもたらすきっかけとなります。

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